QEMM 8J
米国Quarterdeck社のメモリ管理ソフト"QEMM"(Quarterdeck Expanded Memory Manager)の日本語版。Windowsしか使ったことがない人にはこれがどういうソフトなのか理解できないだろう。
DOSはもともと16ビットCPU"Intel 8086"用に設計されたOSのため、DOSのシステムがアクセスできるメモリ空間は1MBに限られている。その中でさらに画面表示用のVRAMやBIOS ROMなどが割り当てられるため、IBM PC互換機の場合はソフトウェアは640KBしか使用できないことになっている。当初はそれで困らなかったが、何年も経つと技術の進歩でソフトウェアの機能が充実する分、メモリの消費量も増えてくる。この状況に対処すべく、EMS、XMS、UMB、HMAといったメモリを拡張する技術が登場した。これらのメモリ拡張手段は無制限で使えるわけではなく、プログラムの種類によって使い分ける必要があり、ユーザーも使用するシステム構成とソフトウェアを考慮して適切な設定を施す必要があった。このことは初心者にとって特に敷居の高い話であった。QEMMはこれらの拡張メモリを一括で自動設定・管理してくれるという便利なソフトで、海外のみならず日本においてもIBM PCユーザーの間では定番のソフトとなった。DOS J5.0/VよりDOS標準でこれらのメモリ拡張方式に対応したため、QEMMを導入するメリットは少し薄れた。それでも、QEMMはDOS標準のメモリ管理ドライバ(EMM386)と比べてより多くのメモリを各プログラムに効率よく割り当てることができたため、それなりに人気を得ていた。しかしWindows 95の登場でメモリの1MB制限が完全に取り払われると、QEMMの存在意義が薄れていった。
QEMMの最後のバージョンは9(QEMM97)なので、QEMM 8Jは末期のバージョンだ。バイリンガル(日本語/英語両対応)ではないため、英語環境では設定ツールやWindows用のユーティリティが使えない。一応、英語モードでもCONFIG.SYSを手動で記述してメモリ管理ドライバを組み込むことは可能。
QEMMは専らIBM PCハードに依存したツールなのでPC-98には移植されていないが、同等の機能を持つPC98用メモリ管理ソフトとしてメガソフトのMEMORY-PRO 386というソフトが有名であった。
PC DOS J6.1/VまたはMS-DOS 6.2/Vの標準機能との違い
- システム構成を自動で分析してメモリ構成の設定を行う。もちろん手動で設定することも可能で、そのための補助ツールも充実している。
- プログラムからの要求に応じて必要な種類のメモリを動的に割り当てる。QEMM設定時にXMSとEMSを区別する必要がない。
- DOS標準ではHIMEM.SYSとEMM386.EXEの2つのファイルに分かれているが、QEMMではQEMM386.SYSの1つのファイルでXMS/EMS/XMA/UMBの各種メモリをサポートする。基本メモリの使用量はDOS標準のドライバよりも少ない。
- システム情報レポートプログラム"Manifest"が付属。(スクリーンショット画像を参照。)
- Windows上からQEMMの設定を変更するためのツールが付属。
- "MagnaRAM"(物理メモリおよび仮想メモリのデータを圧縮する機能)が付属。
- Windowsに最適化されたリソースマネージャーによりWindowsにおけるリソース不足を低減。
- Windowsの仮想386モードにおいてDOSプログラムを実行するための基本メモリを8KB-24KB多く提供する。
- "DOS-Up"機能(DOSのコマンドプロセッサ、カーネル、データ、リソースを上位メモリにロード)。
- "Optimize"で上位メモリの構成を自動で検出してメモリの割り当てを最適化。(MS-DOSのMemmaker、PC DOSのRAMBoostに相当)
- 上位メモリを4KB単位でRAMマッピング。DOS標準のツールよりも自動検出の精度が優れている。
- システムのブートアップ時のみに使われる32KBのROMアドレス空間をRAM化。
- 標準では64MBまでの拡張RAMをサポートしているが、手動設定で約256MBまで使用可能。