PC98版MS-DOSのバージョン一覧 [PC98]

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NEC PC-9800シリーズ パーソナルコンピュータ用MS-DOSのバージョン一覧。

DOS誕生の大まかな歴史

「DOS (The IBM Personal Computer DOS Version 1.00)」は米IBM社のパソコン「IBM PC (Model 5150)」のためのOSとして、1981年8月に登場しました。(日本ではどちらも未発売。非正規の輸入業者は居た。)もともとは8ビットPC向けOSとして既に普及していた「CP/M-80」をSeattle Computer Products社が16ビットCPU「Intel 8086」のために改良して「86-DOS」として売り出し、さらにこれを米Microsoft社が買い取って改良し、IBM PC用のOSとして発表しました。Ver.1.25からIBM以外のメーカーへのOEM供給を開始してIBM PC以外のパソコンでもDOSが動くようになりました。(後に製品名を「MS-DOS」に統一。)IBM PCの注目度のみならず、1970年代後半から国内外を問わず多くの8ビットPCにおいてMicrosoft社のBASICが採用されており、PC業界では企業の知名度が高かったことも各社がMS-DOSを採用した要因になりました。(1-2-3互換機の話も切り離せないが、ここでは省略。)

かつて8ビット機OSのデファクトスタンダードであったDigital Research社の「CP/M-80」。当初はその後継である16ビット機用の「CP/M-86」が優勢かと思われましたが、IBMとMicrosoftによる巧みな営業戦略とMS-DOS 2.0での大幅な機能拡張により、MS-DOSがデファクトスタンダードの地位を確立しました。(MS-DOSのキラーソフトであったLotus 1-2-3の影響も無視できません。)しかしCP/M-86の登場が無駄になったわけではありません。日本語に対応した「日本語CP/M-86」のために新たな漢字コード体系が制定され、それが「Microsoft Kanji Encoding scheme」(MS漢字コード)、つまり「シフトJISコード」となり、日本語MS-DOSからWindows XP日本語版まで標準の文字コードとして使われました。(SJISの誕生経緯には諸説あり。)

マイクロソフトウェア アソシエイツによるCP/Mの広告(1983年2月)。
CP/M / Micro Software Associates Corporation.

PC98版MS-DOSのバージョン一覧

ここではNEC PC-9800シリーズ用のMS-DOSについて扱っています。ここでの「本家」とは米IBM PC用の「DOS」、およびDOSを開発した米MicrosoftがPC/AT互換機メーカーにOEM提供した「MS-DOS」を指します。価格は1.2MBメディアの定価。PC-98XA専用とかVer3.3D-Rのような特定機種専用バージョンは除外。

Ver. 型番 価格 出荷開始日 主な変更点
1.25 PS98-111 43000円 1983年7月 試験的リリース。MS-DOS標準漢字仕様に準拠する日本語処理機能と独自コマンドを追加。
2.0 PS98-121 11000円 1983年11月 本家のシステムが大幅に改良された。かな漢字変換として熟語変換に対応。マニュアルは別売。
2.0 PS98-122 16000円 1986年6月 かな漢字変換として文節変換に対応。
2.0 PS98-123 16000円 1986年11月 かな漢字変換として連文節変換に対応。
3.1 PS98-125 18000円 1985年10月 MS-Networks対応。一部のHDと本体機種の組み合わせで拡張フォーマットに対応。
3.1 PS98-127 18000円 1986年11月 連文節変換対応。一部のコマンドでメニュー選択方式を採用。MASMが別売になる。
3.1 PS98-129 18000円 1987年7月 ADDDRV等のコマンド追加。ユーザーズマニュアルが2冊に分かれる。
3.1 PS98-011 18000円 1987年10月 ハイレゾ機用と共通化。逐次変換対応。プリンタドライバをPRINT.SYSとして分離。
3.1ア PS98-012 12000円 1987年10月 アプリケーションソフト実行環境セット。一部のマニュアルを省略した。
3.3基 PS98-013 18000円 1988年7月 XCOPYコマンド追加。EMSメモリ対応。SCSI-HDとFAT16対応。AIかな漢字変換対応。
3.3ア PS98-014 12000円 1988年7月 .
3.3A基 PS98-015 18000円 1989年2月 PC-98RL(80386 20MHz)対応。EMS標準仕様(ページフレームC0000)に対応。
3.3Aア PS98-016 12000円 1989年2月 .
3.3B基 PS98-017 18000円 1989年11月 PATCH、FONT.SYSを追加。仮想86EMSをサポート。
3.3Bア PS98-018 12000円 1989年11月 .
3.3C基 PS98-019 9800円 1990年7月 MOドライブ対応。一部のマニュアルとプログラムが別売に。インストール必須。
3.3C拡 PS98-1001-*1 8200円 1990年7月 コマンド解説と開発者向けのプログラムやマニュアルが付属。
3.3D基 PS98-1002 9800円 1991年11月 サブディレクトリへインストール可能。スクリーンエディタ(SEDIT)を追加。
3.3D拡 PS98-1001-*2 8200円 1991年11月 主にマニュアルの改訂。
5.0基 PS98-1003-*1 12800円 1991年11月 HDDは領域あたり2GBまで対応。HMA、UMBによるフリーメモリ拡大。DOSシェル追加。
5.0拡 PS98-1004-*1 10000円 1991年11月 .
5.0A基 PS98-1003-*2 9800円 1992年11月 DOSSHELLタスクスワップ機能、DPMI対応。
5.0A拡 PS98-1004-*2 8200円 1992年11月 .
6.2基 PS98-1005 12000円 1994年12月 CDドライブ、256色表示、86音源のドライバが標準添付。本家と同等のユーティリティ追加。
6.2拡 PS98-1006-*1 8000円 1994年12月 .

上記リストのバージョン名は都合上省略した表記となっていますが、実際の製品名はVer.1.25は「MS-DOS(Ver.1.25)」、Ver.6.2は「MS-DOS 6.2」、その他は「日本語MS-DOS(Ver.x.x)」となります。「基」は「基本セット」または「基本機能セット」、「ア」は「アプリケーションソフト実行環境セット」、「拡」は「拡張機能セット」となります。例えば「日本語MS-DOS(Ver3.3D)基本機能セット」など。拡張機能セットにはDOSは含まれていません。

製品型番の末尾はフロッピーディスクの形式によって異なります。

型番の末尾 ディスクの種類
-HSF 8インチ2D
-H2W 5インチ2D
-H4W 5インチ2DD
-HMW 5インチ2HD
-HU 3.5インチ2DD
-HV 3.5インチ2HD
-5* 5インチ2HD
-3* 3.5インチ2HD

変更点の補足説明

Ver.1.25

Image: PC98 MS-DOS Ver.1.25Image: PC98 MS-DOS Ver.1.25 Users manual
(画像ソース)

まだマイクロソフト(当時のアスキー)がMS-DOSの日本語版を開発している最中であったため、このバージョンでは各メーカーが独自の実装で日本語処理機能を加えていました。この時点ではCP/M-86の方が勢いがあり、PC-98でもMS-DOSはCP/M-86より後に出荷されました。MS-DOSの採用はVer.1.25では日立16000が、Ver.2.0では東芝パソピア16が先行していました。かな漢字変換プログラムがないので、漢字はシフトJISコードで入力する必要がありました。それ以前に、当時のPC-9801は漢字表示機能が別売オプションで、最小構成では英数カナしか表示できませんでした。

Ver.2.0(内部バージョンは2.11)

本家DOSで大幅な改良が行れました。例えば、ディレクトリによる階層化をサポート、デバイスドライバによるシステム拡張、CONFIG.SYSによるカスタマイズ、ディスクのボリュームID、フィルタやパイプを使ったコマンドライン、エスケープシーケンスによる画面制御、などの機能が追加されました。また、日本語MS-DOSでは標準で日本語処理に対応し、システムメッセージも日本語化されました。PC98版としては熟語変換対応(別売)、20MB HDD対応など。Ver.3.1発売後もしばらくの間は併売されていました。価格が一気に下がったように見えますが、別売のマニュアル(15000円)や熟語変換用辞書(12000円)を合わせればあまり変わっていません。マイクロソフトがMS-DOSの普及を促すため、1987年までは本バージョンの市販ソフトへのバンドルが認められていました。一太郎やLotus 1-2-3など市販ソフトで初めからMS-DOS 2.11が組み込まれているのは、この制度を利用したためです。Windows 2.11の時にも類似の普及キャンペーンが行われましたが、こちらは思惑通りにはいきませんでした。

Ver.3.1

Image: PC98 MS-DOS Ver.3.1
(画像ソース)

PC98版独自の機能が増えてきます。従来の標準フォーマットに代わる拡張フォーマットにより20MB制限がなくなり、1台のHDDにつき最大4つまで起動可能な領域を作成できます。複数のOSをインストールした場合は、ブート時に「固定ディスク起動メニュープログラム」が表示され、起動するOSを選択することができます。PC/AT互換機と異なり、1台のHDD内で複数のバージョンのDOSが共存できます。ネットワークの大容量ドライブ対応のため仕様上はFAT16に対応していますが、本バージョンではHDの領域を最大40MBまでしか作成できないよう制限されています。PS98-125はいくつかのバグを抱えていて、特にEDLINコマンドのバグはNHKの19時のニュースに取り上げられて一時話題になりました。PS98-127より一部の外部コマンドにメニュー選択形式が実装されました。これによりFORMATコマンド、KEYBコマンドなどが方向キーで処理や設定を選択する方式になり、操作性が改善されました。また、あらかじめ決めておいたコマンドをカーソルキーで選んで実行するMENUコマンドが追加されました。本バージョンから市販ソフトへのバンドルは認められなくなりましたが、既得権は認められていたため、既存の市販ソフトはMS-DOS 2.11を引き続きバンドルする状況が続きました。

Ver.3.3(内部バージョンは3.21)

同じ製品名で複数のバージョンが存在するとややこしいということで、PC98版では機能を追加・変更するとバージョン番号の後にA、B、Cと付くようになりました。ただし、同じバージョン・型番でもバグ修正による差し替えが存在します。新機能としては、正式にSCSIインターフェースとEMSメモリに対応しました。HDDはSASI接続で2台、SCSI接続で4台の合わせて6台まで使用できます。HDは領域あたり128MBまで確保できます。ただし、一太郎Ver.3 (ATOK 6) などの古いソフトが動作しなくなるといった互換性の問題があります。このバージョンは表記上はVer.3.30でしたが、ベースはVer.3.21でした(MSDOS.SYSをテキストエディタで覗くとわかる)。日本国内ではMS-DOS Ver.3.30は供給されていません。MS-DOSは日本国内でも様々なメーカーが独自の機能を付けて販売しましたが、PC98版が最も改造箇所が多かったそうです。

Ver.3.3A

EMSメモリのページフレームは拡張ボードのROMアドレスと競合を避けるためにB0000-BFFFFに設定していましたが、業界標準(C0000-CFFFF)に対応しないのは問題だというソフトハウスの苦情を受け、Ver.3.3Aで追加対応しました。

Ver.3.3B

80386以上のCPUでEMSを高速にエミュレーションする仮想86EMSがサポートされるようになりました。また、内蔵漢字ROMや別売のマルチフォントROMボードに対応するフォントドライバ (FONT.SYS) が追加されました。

Ver.3.3C

Image: PC98 MS-DOS Ver.3.3C Basic function setImage: PC98 MS-DOS Ver.3.3C Extended function set
(画像ソース)

INSTDOSコマンドが追加され、初回使用時にインストール作業が必須になりました。従来のバージョンでは、FDで運用する場合は元のMS-DOSのディスクをDISKCOPYコマンドでそのままコピーして使います。HDで運用する場合はHDの領域作成やフォーマットを済ませてからディスクのファイルをコピーします。また、NEC純正の5インチMOドライブを標準でサポートしました。SYMDEBコマンドなどの開発者向けツールやマニュアルは別売の「拡張機能セット」として分けて供給されることになりました。このバージョンからMS-DOS単体パッケージが普及し始めました。理由としては、MS-DOSの価格が安くなったこと、ソフトウェアやデータファイルのサイズが大きくなってきたため、HDとそれを管理するMS-DOSの必要性が増してきたこと、MS-DOSを別途必要とするソフトウェアが多くなってきたこと、HDも比較的安くなったこと(といっても、40MB I/F込みで10万円前後。)が挙げられます。

Ver.3.3D

これまでMS-DOSはルートディレクトリ以外へインストールできませんでしたが、本バージョンからはサブディレクトリにインストールできるようになりました。標準ではA:\DOSにインストールされます。また、簡単なテキストファイル編集のためにスクリーンエディタ(SEDIT)が追加されました。

Ver.4.0は存在しません。本家DOS Ver.4.0の完成度が低く、システムのメモリ占有量が増えて空きメモリが大幅に減少したため、日本の多くのメーカーは引き続きVer.3.x系をベースに開発を続けました。NECはVer.3.3(実際はVer.3.21ベースとみられる)、東芝と富士通はVer.3.1、AX陣営はVer3.21としていました。エプソンと日本IBMはVer.4.0を採用しました。

Ver.5.0

本家DOSではVer.3.xと比べて、XMA、HMA、UMBの各種メモリ拡張対応、大容量HDD対応、DOSSHELL追加、スクリーンエディタ追加など、機能が充実しました。PC98版もそれに準じています。当時、日本語MS-Windows 3.0が話題になり、Windowsを購入する人はDOS5.0とセットで購入することが多かったようです。翌年に5.0Aにマイナーバージョンアップし、こちらは中古市場で6.2よりもよく見かけます。

Ver.5.0A

Image: PC98 MS-DOS Ver.5.0A Basic function setImage: PC98 MS-DOS Ver.5.0A Extended function set
(画像ソース)

おそらく、MS-DOS単体パッケージでは6.2と並んで最も流通量の多いバージョンでしょう。PC-9821シリーズからは原則MS-DOS 5.0A-Hがプリインストールされており、このパッケージ版は旧機種のユーザー向けという意図があったのか、PC-9821シリーズで内蔵されたCD-ROMドライブや256色グラフィック機能には対応していません。実は出荷時期によっていくつかのリビジョンがあります。

Ver.5.0A-H

このバージョンは単体パッケージでは存在しませんので、上記リストには記載していません。PC-9821シリーズにプリインストール、または一部の機種にアップデートディスクとして付属しました。本バージョンの追加機能は機種によって異なり、1.44MBフロッピーフォーマット対応、シリアル通信の19200bps対応、マルチメディア機能対応ドライバや仮想FD機能などが追加されました。多くの機種にバンドルされたことを考えると、最も普及したバージョンではないでしょうか。ただし、現在出回っている中古PC-98本体の多くはリカバリデータが付いていないため、急速に失われつつあります。

Ver.6.2

Image: PC98 MS-DOS Ver.6.2 Basic function setImage: PC98 MS-DOS Ver.6.2 Extended function set
(画像ソース)

最終版(正確には修正モジュールのアップデートサービスを適用した状態が最終版)。MEMMAKER、ファイル高速シリアル転送、スキャンディスク、デフラグ、ドライブ圧縮など、本家DOSと同等のユーティリティーが追加されました。PC98版の市販品MS-DOSとしては初めてCD-ROMドライバやマルチメディア関連のドライバが添付されました。必要動作環境はCPUが80386SX以上、メモリが1.6MB以上となり、古い機種にはインストールできません。DOSのシステムはVer.5.0とほとんど変わらず、ただ過剰な機能でメモリ消費量が増えたため、旧来のVer.5.0を好んで使う人が結構いました。初めからユーティリティーとドライバーが揃っているので、新規ユーザーにとっては優しい仕様と言えるかもしれません。

日本で最初に発売されたMS-DOS

PC98の最初のMS-DOSは、1983年7月28日に出荷が開始されたMS-DOS Ver.1.25です。OSとしては1982年11月にCP/M-86 Ver.1.1が発売されています。

16ビットパソコンとしては1981年9月頃に安立電気からPacket68000(105万円)が発売されていますが、名前の通りCPUが68000なので除外。1982年1月の三菱電機 MULTI16はCP/M-86を採用したためMS-DOSへの移行に少し遅れました。1981年発売のN5200はいち早くMS-DOS移植予定をうたっていましたが、いつ頃発売されたか不明瞭な上にN5200自体が市販されておらず、パソコンとは言い難い。そう考えるとMS-DOSが最初に採用されたパソコンは、1982年5月頃に発表された日立ベーシックマスター16000という説が有力なのではないでしょうか。

アスキーマイクロソフトによるMS-DOS Version 2.0の広告。(1983年1月)
Advert of MS-DOS 2.0 / Ascii Microsoft
MS-DOSの採用されているハードウェアとして、ソード電算機システム M343、国際電気 KDS 7860、東京芝浦電気 PASOPIA16、キヤノン販売 AS-100、松下通信工業 my brain 3000、日本電気 N5200モデル05、日立製作所 16000 SERIES、ロジック・システムズ・インターナショナル iBEX 9000シリーズ、ワイ・イー・データ YD-8110、日本エヌ・シー・アール NCR9005、日立製作所 HITAC T-560/20、が挙げられています。私が知る限りでは、M343、PASOPIA16、AS-100、my brain 3000、NCR9005は日立16000よりも後に発売されています。

関連リンク


移転前のブログ記事コメントより (3コメント)

MS-DOS広告の掲載誌 (小形克宏)
2013-05-09 18:49:39
はじめまして。フリーライターの小形と申します。こちらのエントリにありますMS-DOS ver.2.0の広告、大変参考になりました。もしよろしければ掲載誌名と初出をお教えいただけないでしょうか。よろしくお願いいたします。
Re: MS-DOS広告の掲載誌 (kari)
2013-05-10 09:46:20
コメントありがとうございます。
この広告は日経BP(日経マグロウヒル)から出版された 日経コンピュータ 1983年2月21日号 に掲載されていたものです。1989年までの刊号はだいたい目を通しましたが、MS-DOSが主体の広告はこれだけだったと思います。(現在は手元にないのでちゃんと確認できませんが。)同時期に別の号にはGW-BASICやMS-FORTRANなど、今となってはなかなか興味深い広告が載っていました。
昔のコンピューターの広告に興味をお持ちでしたら、こちらのサイトにいくつか展示しておりますのでどうぞご覧下さい。
http://radioc.web.fc2.com/
ありがとうございます (小形克宏)
2013-05-10 21:14:21
日経コンピュータでしたか。どうもありがとうございます。さっそく探してみますね。

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