MS-DOS 5.0Aには複数のバージョンがある [NEC PC98]

調査を始めたきっかけ

NECの公式なアナウンスでは、PC-9821シリーズ(1993年1月以降発表の機種)で対応する1.44MBフォーマットのフロッピーをMS-DOS 5.0Aで読み書きするには、本体添付のディスクでMS-DOS 5.0A-Hにアップグレードする必要があるとQ&Aに書いてあった記憶があります。しかし、実際には市販パッケージ版のMS-DOS 5.0Aでそのまま1.44MBフォーマットが使えることがありました。ただ、MS-DOS 5.0Aが発売された1992年11月時点では1.44MBフォーマットに対応する機種はまだ登場していないわけで、後から対応したとすれば、パッケージ版MS-DOS 5.0Aには複数のバージョン(リビジョン)があるんじゃないかと思っていました。Formatコマンドに複数のバージョンがあるという話も聞いたことがあります。ただ、実機ではプリインストールの5.0A-Hを使っていたので、不具合らしい不具合にあたったことがなく、あまり気に留めていませんでした。

最近、MS-DOS 5.0Aの末期のロット(ラベルに青罫線がないディスク)を手に入れたので、5.0Aのファイルリストを作ってみたら、サイズ違いがいくつもあることに気が付きました。そこで、私の手の届く範囲で調べてみた次第です。

MS-DOS 5.0 リビジョン一覧

CHKVER(参考文献:ざべ 1995年2月号『PC-9800版 MS-DOS 6.20 解体新書』)によれば、PC-98版MS-DOS 5.0/5.0Aには以下のリビジョンがあるようです。

製品Ver. 製品番号 リビジョン 1.44MB FD 1GB超 HD シール 供給時期(推定)
5.0 0101h 0001h × ×    
5.0 0101h 0003h × ×    
5.0A 0102h 0001h × × 無・白 1992年11月以降
5.0A 0102h 0003h ×   1993年1月以降
5.0A 0104h 0004h ×  
5.0A 0105h 0005h 赤・黒 1994年7月以降

5.0Aのリビジョン3でフロッピーディスクの1.44MBフォーマットに対応しています(1992年以前に発売された機種は内蔵ドライブが未対応)。

また、リビジョン5(Format Ver.5.50)で1GB超のハードディスクに対応しています。未対応のリビジョンではFORMATコマンドで1GB超のハードディスクを正しく扱えず、初期化できなかったり、システムを転送できなかったりと様々な不具合が発生します。他の変更点として、私が調べた限りでは、SWITCHコマンドでRS-232Cの19200bpsが選択できるようになったり、FORMATコマンドでフロッピーディスクのフォーマット画面を出すスイッチが追加されたりしているようです。また、BIOSがNEC製かどうかを検証してNEC製以外の98互換機では起動しないようにするエプソンチェック(通称)は、このリビジョンで廃止されています。

5.0A-H (5.00A-H)は1992年末以降のPC-98にプリインストールされているか、アップグレード用ファイルとしてリカバリディスクに収録されているバージョンで、機種固有の追加機能をサポートしています。例えば、仮想FD機能、拡張サウンドドライバ、拡張グラフィックドライバ、CD-ROMドライバなどです。5.0A-Hが必ずしも5.0Aより新しいとは限らないようで、1GB超ハードディスクへの対応はリビジョンやFormatコマンドのバージョンを調べる必要がありそうです。機種の発売時期からもある程度推測できるでしょう。

私が持っているパッケージ版MS-DOS 5.0Aはシリアル番号を見ると1996年3月出荷分ですが、外箱のシールは黒色でリビジョンは5のままです。MS-DOS 6.2とWindows 95が発売された後にも5.0Aが出荷されていたことが驚きですが、まあとにかく、リビジョン5が最終リビジョンであることは確実でしょう。

リビジョンの見分け方

5.0と5.0Aは製品名、P/N、ID、タイムスタンプ、VERコマンドの表示、それぞれが異なるので容易に見分けが付きますが、同じ5.0Aでも4つのリビジョンが存在します。リビジョンは外箱の上部に貼られているシールの色で見分けられるようです。違いについては上の表にある通りです。

Image: NEC MS-DOS 5.0A 外箱シール

外箱のシールを確認できない場合、システムディスクのシリアル番号 (Serial No.) から出荷時期を割り出してリビジョンを推定する方法があります。私の推測ですが、NEC製MS-DOSのシリアル番号は2-xxxY-Mxxxxx(Yが年の下1桁、Mが月、Xは任意の英数字)という法則になっていると思われます。例えば、2-xxx3-6xxxxxであれば1993年6月、2-xxx4-Zxxxxxであれば1994年12月(X=10月、Y=11月、Z=12月)という感じです。

そのMS-DOSを起動できる環境とフロッピーディスクを読み書きできる環境があるなら、MS-DOS上でCHKVERを実行してリビジョンを調べることが出来ます。

ファイルのタイムスタンプはパッケージ版の場合は全て1992年11月11日で同じなので、見分けることはできません。IO.SYSに至ってはファイルサイズも同じですが、バイナリが一部異なります。DUMPコマンドを使い、DOSがインストールされているドライブのルートディレクトリにあるIO.SYSを開くと、番地0x20と0x22にそれぞれWORD値で製品番号とリビジョンが記録されていることが分かります。CHKVERではこれを見ているものと思われます。

リビジョンの違い

ファイルサイズ比較

色分けはサイズ変更を示します。同じサイズでバイナリのみ異なるファイルは、このリストには含んでいません。一番左はTsuneta's Homepage:MS-DOS Filesのファイル一覧より。タイムスタンプが1993年1月10日かつSYSBACK.EXE(リカバリディスク作成ツール)が入っているので、PC-9801BAあたりの機種にプリインストールされたMS-DOS 5.0A-Hと思われます。5.0A-Hにある機種固有の機能に関するファイルはリストに入れていません。

ディスク ? 製品版5.0A(?) 製品版5.0A(黒) PC-9821Cx
タイムスタンプ 1993/01/10 1992/11/11 1992/11/11 1994/09/27
バージョン 5.00A-H? 5.00A 5.00A 5.00A-H
製品番号 ? 0x0104 0x0105 0x0105
リビジョン ? 0x0004 0x0005 0x0005
BACKUP.EXE 36,748 36,748 37,644 37,644
CUSTOM.EXE 76,917 76,917 76,917 82,557
DISKCOPY.EXE 51,305 50,569 61,127 61,127
DOSSHELL.0RB 6,469 6,469 6,469 6,664
DOSSWAP.EXE 22,116 22,116 22,130 22,130
DPMI.COM - - - 2,765
DPMI.EXE 405,566 405,566 405,566 239,669
DPMI.INI 440 440 440 310
DVXD.386 - - 4,708 4,708
EMM386.EXE 91,742 91,742 97,374 97,374
EXTDSWAP.SYS 31,050 31,050 44,510 44,510
FORMAT.EXE 73,555 73,555 84,753 84,753
GRAPH.LIB 223,744 223,744 223,744 189,952
HDFORMAT.EXE 92,587 91,985 94,013 94,029
HDUTL.EXE 37,129 37,129 37,417 37,481
HIMEM.SYS 11,024 11,024 11,024 11,296
INSTAP.EXE 34,905 34,905 36,037 36,037
LABEL.EXE 9,902 9,902 9,918 9,918
MENU.COM 17,381 17,381 17,381 17,390
NECAI.SYS 660,480 660,480 660,480 971,776
PRINT.SYS 6,529 6,529 6,703 6,703
RAMDISK.SYS 5,392 5,392 5,488 5,488
RESTORE.EXE 38,486 38,486 38,582 38,582
SPEED.EXE 32,730 32,730 32,730 30,454
SWITCH.EXE 28,304 28,304 35,485 35,485
XCOPY.EXE 16,158 16,158 16,174 16,174

各コマンドバージョン比較

同じバージョン番号でもサイズ違いは色を分けています。例えば、HDFORMAT.EXEのバージョンは黒シール製品版と9821Cxプリインストール5.0A-Hで同じ5.50ですが、中に含まれている固定ディスク起動メニュープログラムのバージョンが違います。括弧内のバージョンは画面上には表示されません。

ディスク 製品版5.0A(?) 製品版5.0A(黒) PC-9821Cx
バージョン 5.00A 5.00A 5.00A-H
製品番号 0x0104 0x0105 0x0105
リビジョン 0x0004 0x0005 0x0005
タイムスタンプ 1992/11/11 1992/11/11 1994/09/27
CUSTOM.EXE 5.10 5.10 5.60
DISKCOPY.EXE 5.00 5.20 5.20
FORMAT.EXE 5.20 5.50 5.50
HDFORMAT.EXE 5.10 5.50 5.50
(固定ディスク起動メニュー) 2.30 2.30 2.50
HDUTL.EXE 3.00 3.20 3.20
INSTDOS.EXE 2.10 2.20 -
INSTAP.EXE 1.00 (1.00) 1.00 (1.10) 1.00 (1.10)
MENU.COM 2.41 (2.411) 2.41 (2.411) 2.41 (2.413)
SPEED.EXE 3.10 3.10 3.30
SWITCH.EXE 3.50 3.70 3.70

参考文献


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