PC-98標準の表示機構についてメモ

NEC PC-98固有のグラフィックシステムについてまとめ。
長くなりすぎたのでいくつかに分割。

ディスプレイ端子について → PC98標準の表示機構 (ディスプレイ出力端子)
画面モードや設定について → PC-98標準の表示機構 (設定関連)
ハードウェアサイドの話 → PC-98標準の表示機構 (ハードウェア関連)
発展の経緯について →↓↓↓


○概要
基本的にPC-98固有のグラフィックシステムはオンボードで搭載されており、PC/AT互換機のグラフィックボードのように取り外したり交換したりできない。
PC-98版Windowsで高解像度を実現するためにWindowsアクセラレータボードというのがあるが、PC-98のグラフィックシステムを無効にした上でPC/AT互換機のグラフィックボードのように利用するため、PC-98固有のグラフィックシステムとは言い難い。
他にもサードパーティーから登場した、独自仕様で1677万色などの多色表示に対応する拡張ボード(SUPER FRAMEやHyPER FRAMEなど)があるが、ここでは取り上げない。


○GDC (Graphic Display Controller、μPD7220)μPD7220AD
1981年にNECがワンチップディスプレイコントローラーμPD(みゅーぴーでぃー)7220を発売。
最大512KBのVRAMを直接制御可能(改良版のμPD72020で2MBに拡張)。直線、円弧などの図形描画機能や拡大表示機能などをもつ。複数のuPD7220を同期して並列動作させることが可能なため、画面上に複数のグラフィックデータを合成表示させることが可能。

1982年、テキスト用に8KB、グラフィック用に96KBのVRAM、μPD7220をテキスト用とグラフィック用に2個搭載したPC-9801が発売。
画面モードは 640x200/モノクロ/6面、640x200/8色同時発色/2面、640x400/モノクロ/3面、640x400/8色同時発色/1面 の4つ。
GDCの高速な図形描画機能はCAD用途で効果を発揮することになるが、VRAMへのアクセスが遅いために塗りつぶし処理が遅く、大量のデータをVRAMに書き込むようなゲーム用途には向かなかった。一方で、当時の競合機種は日本語をグラフィックとしてVRAMに転送・表示していたのに対し、PC-9801ではGDC・テキストVRAMと漢字ROMを組み合わせてハードウェアによる高速な日本語表示を実現し、アドバンテージを得ていた。uPD7220は他にもエプソンQC-10や沖電気if800 model 50、海外ではTulip System-1やNumber Nine社のRevolution(IBM PC用グラフィックボード)に採用された。


○GC (GRCG、Graphic Charger)
VRAM制御のためにPC-98用に新たに追加されたカスタムチップ。
GDCが図形描画を補助する機能を持つのに対しGCはVRAMへのデータ転送を補助する役割をもつ。
最大4プレーンのVRAM同時アクセスや重ね合わせ処理などを可能にすることで、VRAMアクセスや塗りつぶし処理を高速化することが可能になった。
9801U2ではオプションボード(別売)、9801VM/VFではオンボードで搭載した。
またディスプレイへの出力方式として従来のデジタルRGB出力に加えアナログRGB出力に対応。
9801UV2では標準構成でグラフィック用VRAMが256KBになり 640x400/4096色中16色/2面 表示が可能となった。


○EGC (Enhanced Graphic Charger)EGC
GCに代わって新たに搭載されたカスタムチップ。
GCとの互換性を保ちつつ、GDCとの並列処理、ラスタオペレーション、ビット単位のシフト、VRAM上の任意領域の高速ブロック転送を可能にした。
詳細な仕様が公開されなかったため一般的なソフトウェアでは直接EGCを制御することはあまりなかったが、グラフィックと処理速度の両方を重視するソフトではEGCを利用することがあった。

初めてEGCを搭載したのは9801VXだが、後に登場するUV、CVなどの一部の機種ではEGCではなくGC相当の機能に留まっている。
GDC x 2 + EGCという構成は以後のPC-98標準のグラフィックシステムとして、カスタムチップに集積されるなど姿を変えつつもPC-98最終モデル PC-9821Ra43まで引き継がれることになる。

☆PC-98のグラフィック出力部の標準構成

中央に8つ立っているのは256KB VRAM、その上にあるCPUっぽいチップがEGC、左右の黒いチップがテキストGDC・グラフィックGDCの統合チップ。

○AGDC (Advanced Graphic Controller、μPD72120)
PC-H98シリーズに搭載されたグラフィックコントローラー。
1986年発売。最大32MBのVRAMデータを制御可能。
図形描画機能、拡大/縮小/回転を行いながらデータを転送する機能、円や四辺形の塗りつぶし機能などを備える。
GDC(μPD7220)との互換性はない。

1985年、512KBのVRAMを搭載したPC-98XAが登場。1120x750/4096色中16色/1面表示を可能にした。
この機種はハードウェアやBIOSレベルで従来のPC-98と互換性がなかったためあまり普及しなかったが、後継機PC-98XLは従来のPC-98と互換性を持つノーマルモードとPC-98XAと互換性を持つハイレゾリューションモードの両方を備え、起動時に切り替え可能とした。
1990年に登場するPC-H98シリーズはGDCとAGDCの両方を搭載し、GDCとの互換性を保ちながらAGDCによってさらに描画処理能力を上げることができた。しかし高価だったためCAD用途に使われることがほとんどで、市場の中心は依然PC-9800シリーズだった。
オプションの256色ボード(増設用VRAM 512KB、50,000円)でVRAMを1MBにすると 最大1120x750/1677万色中256色/1面表示が可能(1991年12月発売のPC-H98 model 80/90よりPC-H98シリーズの標準仕様となる。)


○E2GC (EEGC、Enhanced Enhanced Graphic Charger)
AGDCに対応したGraphic Charger。詳細不明。
PC-98との差別化のためかハイレゾリューションモードやAGDC、EEGCはPC-H98シリーズにしか搭載されず、その後のPC-9821シリーズに引き継がれることはなくPC-H98シリーズは幕をおろした。
後に98MATE Aのローカルバス拡張スロット用でハイレゾリューションモードに対応させるボードが登場するが、こちらはPC-98RL相当の機能のみでAGDCやEEGCは利用できない。


○PC-98GS model 1/model 2
PC-98GSは独自の画面モード(拡張画面グラフィック)を備えていた。
拡張画面グラフィック用に1MBのVRAMを持ち、最大640x240/1677万色/1面、640x480/65536色/1面、640x480/1677万色中256色/2面表示を可能にしている。
しかし専用モニタとセット(PC-98GSmodel1+PC-98GS-C1=836,000円)で実売価格60万円近くしたPC-98GSはさすがに高価だったのか普及しなかった。
一部の機能はPC-9821シリーズに引き継がれているが互換性はなく、PC-98GS特有の仕様となってしまった。


○EPSON PC-386/486シリーズ用拡張ビデオボード
EPSON製PC-98互換機のノーマルモード上のWindowsで640x480/256色表示を可能にするオプションボード。
1992年6月にPC-486GR/GFとともに発表され、オプションという形ではあるが本家PC-98に先駆けて普及モデルでの256色表示に対応した。
さらに増設用VRAMを取り付けると1024x768/16色/インターレース表示が可能になる。


○PEGC?(256色モード)
GDC+EGC相当の機能に新たに2つの画面モード(640x400/1677万色中256色、640x480/1677万色中256色)を追加した。VRAMは512KB。
PC-H98の256色モードと互換性はない。
詳細な仕様が公開されず正式名称も不明だったため単に256色モードと呼ばれていたが、マニアの間ではWindows用ディスプレイドライバから名前をとってPEGCと呼ばれることもある(※)
当初256色モードにはVRAMへのアクセス方法としてプレーンモードとパックトピクセルモードが存在したが、初代98MATE X以降の機種ではプレーンモードが削られている。




○Windowsアクセラレータボード
WindowsのGDIに対応した2D描画補助機能(2Dグラフィックアクセラレータ)を持つグラフィックボード。
描画性能はGPUやフレームバッファ(VRAM)の量によって異なるが、これによりWindowsでの描画速度が格段に向上する。
(現在のグラフィックボードでは2Dアクセラレータ機能を当たり前のように備えているため仕様に書かれていないが、当時はそれがアピールポイントになり得た。)
DOS使用時はPEGCなどのPC-98標準のグラフィックシステムを使い、Windows使用時はPC-98標準のグラフィックシステムを無効にしてグラフィックボードの描画機能を使う。
グラフィックボードに用いられるGPUはほとんどがPC/AT互換機向けに作られていたもので、特にPCIスロット用のグラフィックカードはPC/AT互換機向けの製品からVGA BIOSを無効にしただけのものもある。
よってWindowsアクセラレータはPC-98固有のグラフィックシステムではないのだが、一応ここで挙げておく。


☆40桁モードと白黒モードの削除
PC-9821シリーズにはテキスト画面の40桁モードおよびグラフィック画面の白黒モード(640x200 & 640x400)をサポートしていない機種が存在する。
はっきりとした境界はわからないが96年以降に発表された機種が該当する模様。
マニュアルに注意書きが記載されていることがあるので、実機持ちでもし気になるのであればそちらを参照のこと。


☆まとめ


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