NEC PC-98の雑誌広告を掘り出してみる[No.2]

Image: Multi16 advert

上は日経コンピュータ 1982年5月17日号より、三菱電機MULTI16の広告。
MULTI16は国内大手コンピュータメーカーの中ではいち早く発売された16ビットパソコン。発表後早々に各大手コンピューターメーカーから名前も隠さずに資料請求が来たという。FDDを標準で搭載しており、ディスクでの運用を前提としたハードウェアや、画面のテキスト表示のためのフォントをディスクから読み込むなど、現行のパソコンに通ずる先進的なシステムであった。しかし、その分高価・低速になり市場には受け入れられなかった。そのうちに安価・高速・ソフトウェア資源を継承可能なPC-9801が発売されると、MULTI16の存在はすっかり薄くなってしまった。

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NEC PC-98の雑誌広告を掘り出してみるNo.3

PC-8000シリーズからPC-9801Fまで。
前ページまではメーカーの隔てなくマシンを紹介してきたわけですが、さすがにそれでは持たないので、ここからはNECのマシンを中心に取り上げたいと思います。80年代から90年代にかけては、普及価格帯のパソコンの歴史はNECのパソコンの歴史と言っても過言ではないでしょうから。
各製品そのものの説明は最小限にとどめています。仕様などの情報はPC-9800シリーズ(Wikipedia)に詳しく書かれていますのでそちらを参照してください。

○NEC PC-8001 (1979年5月発表)(168,000円)
PC-8001
(月刊アスキー 1979年6月号)

当時、既に国内・海外メーカからいくつか8ビット機が販売されていたが、売れ行きはいまいちであった。NECからはCOMPO BS/80が発売されていたが、これはTK-80BSをベースにした完成品BASICマシンで、ワンボードマイコンとパソコンとの過渡的な存在だった。

そんな中、1978年の夏に12名のスタッフによって"PCX-01"というコードネームでパソコンの開発が始まり、翌年にPC-8001として発売された。発売のタイミング、性能と品質が優れていたこと、適当な価格、Microsoft社製BASIC搭載、NECマイコンショップという販売網が築かれていた、などの要因により大ヒット。1983年1月の生産終了までに25万台が出荷された。

○NEC PC-6001/8001/8801 (PC-6001: 89,000円、PC-8801: 228,000円)
NEC PC-6001/PC-8801
(月刊アスキー 1981年11月号)

PC-9801登場までの流れを作ったNEC8ビット機3機種。いずれも日本のPC市場に大きな影響を与えた名機。他サイトに情報が充実しているので詳細は省略。

これまでのパソコン(マイコン)はオフィスの実務に使うことは考えられていなかった。PET2001やPC-8001などは確かに実用用途も意識して作られたパソコンで、科学技術計算や工場の機械制御などにも使われた。しかし、これまでメインフレームやオフコンを導入してきた企業から見れば、メモリが少ないことやネットワークに接続できないという理由で、パソコンは実務に耐えられないと考えられた。個人や中小企業から見れば、当時はまだ市販ソフトが少なく、パソコンを使うには自分でプログラムを組まなければならない=パソコンは素人には使えない、というイメージが残っていたことも背景にある。
そんな状況の中で1981年、NECからグラフィック端末、事務処理機、パーソナルコンピューターの機能を併せ持つマイクロプロセッサを搭載したパソコン"N5200"が発売される。汎用マイクロプロセッサを使用しつつも事務処理用途を意識した本格的なパソコンであった。その後、富士通FACOM9450やIBM5550など同じようなコンセプトのパソコンが発売され、"オフィスパソコン""OAパソコン"という新たなジャンルを確立した。家庭向けであった"マイコン"に事務用途の"オフコン"の要素を取り込んでいき、現在の意味・役割での"パソコン"の形になってゆく。

○NEC N5200 モデル05 (1981年10月発表)(システム最小構成: 698,000円)
NEC N5200 model 05
(月刊アスキー 1983年11月号)

ディスプレイと8インチFDDが一体になっている16ビットパソコン。発表当初の名称は"パーソナルターミナル"であったが、後に"パーソナルコンピュータ"に変更された。
メインCPUはμPD8086でメインメモリの容量は128KB。さらにグラフィック処理のためにGDC(μPD7220)を搭載するなど仕様はPC-9801とよく似ているが、あくまでメインフレームのインテリジェント端末として発売された。スタンドアロンでの利用も可能。

○NEC システム20/15 (1982年4月発表)(システム最小構成: 1,998,000円)
NEC System 20 model 15
(日経コンピュータ 1982年5月17日号)

PC-9801の開発のもとになったオフコン(オフィスコンピュータ)。オフコンは事務処理用のコンピューターという意味。一般的にはメーカーがシステム導入からソフトウェア開発・運用までを全面的にサポートするという点でパソコンと異なる。もともとは電子会計機の流れをくむもので、"パソコン"が登場すると定義や区別があやふやになり、1990年代にはオフコンという用語はあまり使われなくなった。

1981年にNECの情報処理部門が16ビットパソコンを企画した際に、既存のクローズドアーキテクチャーなオフィスコンピュータ"システム20シリーズ"の小型廉価機を出す案と一般的なオープンアーキテクチャーのパソコンを出す案が挙がった。結局どちらか一方に選択を絞ることができず、両方の案をとることになった。そしてまずオフィスコンピュータの小型廉価機として"システム20/15"を開発。その直後の1982年3月にパソコンの開発チーム"N10プロジェクト"が発足し、こちらは同年10月に"PC-9801"として発表された。
PC-9801のより詳しい開発経緯は"月刊アスキー別冊 蘇るPC-9801伝説 永久保存版"を参照。

システム20/15はNEC独自の16ビットCPU"μCOM1600"を搭載しており、PC-9801とアーキテクチャーの互換性はない。しかしキーボードやディスプレイ、FDDやHDDが外付けであることやBASICを搭載する点は共通する。こちらにある"システム20/25"(1981年4月発表)の写真と比べるとそれがよくわかる。また"ビジネスパーソナルコンピュータ"という命名はその開発経緯ともつじつまが合う。
価格の高さに驚くかもしれないが、これでも発売時点ではNECのオフィスコンピュータの中で最も安価であった。

○NEC PC-9801 (1982年10月発表)(本体+キーボード: 298,000円)
PC-9801
(日経コンピュータ 1983年1月24日号)

PC-6001,8001,8801,9801,N5200
(月刊アスキー 1982年12月号)

PC-9801初代機。メインCPUはμPD8086 5MHz。メインメモリは128KB。アーキテクチャーを一新しながらも既存の機種とソフトウェアレベル(BASIC)での互換性を確保した。ディスプレイやFDDもPC88用のものを流用することができた。
OSには"CP/M-86(Ver1.1)"と"MS-DOS(Ver1.25)"が別売オプションとして用意されたが、どちらもそれほど普及しなかった。MS-DOSはソフトウェアへのバンドル(ソフトウェアメーカーがMS-DOS用ソフトとMS-DOSの実行環境を一緒に配布すること)が認められていたため、対応ソフトが増えて後にMS-DOSがPC98の標準OSになった。
ちなみに写真でPC-9801と並んでいる周辺機器は、14インチカラーディスプレイ(PC-8853: 215,000円)、8インチフロッピーディスクドライブユニット(PC-9881: 388,000円)、ドットインパクトプリンター(PC-8821: 198,000円)。

競合する16ビットパソコンはこちらが参考になる。
【パソコン狂時代】62 ●高級16ビット!! 福井OAショー1983 前編

○当時の日本における3強コンピューターメーカー(日電,富士通,IBM)の製品展開

多くのパーソナルコンピューター史ではパソコンよりも上位のシステムについて触れることはあまりない。しかし、当時はパソコンとOA(Office Automation)の結びつきが強く、パソコンを含むシステムのラインナップを知ることは重要である。
以下に区分ごとに各メーカーのシステムのシリーズ名を挙げておく。

区分/メーカー 日本電気(NEC) 富士通 日本IBM
スーパーコンピュータ SXシリーズ FACOM VPシリーズ (該当なし)
メインフレーム ACOSシリーズ FACOM Mシリーズ システム/370
オフィスコンピュータ NECシステム FACOM Kシリーズ システム/34,システム/36
オフィスパソコン N5200シリーズ FACOM9450 マルチステーション5550
16ビットPC(オフィス向け) PC-9800シリーズ FM-11,FM-16β
8ビットPC(家庭向け) PC-8800シリーズ FM-7 JX(16ビット)

上記以外の国内メーカーのラインナップ

区分/メーカー シャープ 東芝 日立 松下 三菱
オフィスコンピュータ OAシリーズ TOSBAC HITAC L BC-6100 MELCOM80
オフィスパソコン (該当なし) (該当なし) B-16 Operate 7000 MULTI16
16ビットPC MZ-5500 PASOPIA16 MB-16001 my brain 3000
8ビットPC MZ-700,X1 PASOPIA7 MB-6890 JR-200 MULTI8

NEC スーパーコンピュータ SXシリーズ(SX-2,SX-1,SX-1E) (1983年4月発表)(SX-2: 9000万円/月)
NEC Supercomputer SX Series
(日経コンピュータ 1987年5月25日号)

NEC コンピュータ ACOS システム1500シリーズ,ACOS-4/MVP XE (1985年2月発表)(S1510: 4100万円/月)
NEC Computer ACOS System 1500
(日経コンピュータ 1985年7月10日号)

全4モデル。最上位機種のシステム1540は当時世界最高速の130MIPSで月額レンタル1億4700万円。

富士通 プラスベクタープロセッサ FACOM VP-50 (1985年4月発表)(4600万円/月)
Fujitsu FACOM VP-50
(日経コンピュータ 1985年8月5日号)

富士通 汎用コンピュータ FACOM M-340モデルグループ/M-360R, OS IV/X8 FSP (1983年2月発表)
Fujitsu FACOM M-340/M-360R
(日経コンピュータ 1983年4月18日号)

富士通 オフィスパソコン FACOM9450 (1981年10月発表)(モデルA: 980,000円)
Fujitsu FACOM 9450
(日経コンピュータ 1983年2月21日号)
FACOM9450シリーズはパナファコム株式会社 PANAFACOM CファミリのOEM。HOYAの特注パソコンがベース。
写真に写っているのはJIS第一水準を含む日本語をサポートしたモデルB(発売時135万円)で、パナファコムのC-180Kと同等。

富士通 FM-11 (1982年11月発表)(FM-11ST: 268,000円)
Fujitsu FM-11
(月刊アスキー 1984年2月号)

富士通 FM-7 (1982年11月発表)(126,000円)
Fujitsu FM-7
(月刊アスキー 1983年1月号)

1983年には大手国内電機メーカー各社の16ビットパソコンが揃ったが、コストパフォーマンス、流通網、ソフトウェアの豊富さでPC-9801に勝るものはなかった。1983年4月の時点でPC-9801用ソフトウェアの数は200本を超え、1984年3月に700本、1985年9月には2000本に達した。

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移転前のブログ記事コメントより (2コメント)

PC雑誌記事・写真の件 (山岸)
2012-08-21 09:33:36
はじめまして、山岸と申します。
訳ありまして、持っている古いPCを母校の高校に寄贈したいと思っています、しかし機種の説明をしないと理解しにくいところがありまして、資料を探していたところ、このページにたどり着きました。今回寄贈予定のPCはNECでは「N5200」「PC9801VX」「PC9821CX3」の3機種で8・5・3.5インチのシステムFDなどを考えております。
つきましては、本ブログ掲載のPC広告写真を資料として、使わせていただきたく、お願い申し上げます。
Re:PC雑誌記事・写真の件 (kari)
2012-08-22 11:11:31
>山岸さん。
わざわざコメントして頂き、ありがとうございます。
このページが資料としてお役に立てるのであればどうぞお使い下さい。
一部ですが高解像度画像を上げておきましたので、ご活用下さい7。

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